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episode1「ユニコーンの日」
発売:2010年3月12日 脚本:むとうやすゆき 監督:古橋一浩 絵コンテ:古橋一浩 演出:古橋一浩/佐藤照雄 総作画監督:高橋久美子/玄馬宣彦


 地球軌道上(U.C.0001前日)
アナウンサー 「現在、グリニッジ標準時23時40分。いま、ひとつの世界が終わり、新しい世界が生まれようとしています。まもなく、首相官邸ラプラスにおいて、地球連邦政府主催の改暦セレモニーが執り行われます」
「私たちは、母なる地球の外に自らの世界を築く時代に足を踏み入れました。今宵、私たちは歴史の目撃者となります。この幸運をすべての人と分かち合い、去りゆく西暦の時代を感謝と感慨をもって見送ろうではありませんか。そして新たなる世界――宇宙世紀の始まりを笑顔で迎え入れましょう。さよなら西暦。ようこそ、宇宙世紀!」

 ラプラス内部
リカルド 「地球と宇宙に住むすべての皆さん、こんにちは。私は地球連邦政府首相リカルド・マーセナスです。まもなく西暦が終わり――」
 ラプラス外部
リカルド(放送) 「――首相と大統領が語りかけるのは、自国の国民と決まっていました」
「国家とは、国民と領土の統治機構であり、究極的には自国の安全保障のためにのみ存在するものでした。いま、人類の宿願であった統一政権を現実のものとした我々は――」
サイアム(少年) 「…………」
 ラプラス内部
リカルド 「――旧来の定義における国家の過ちを指摘することができます」
「人間がひとりでは生きていけないように、国家もそれ単独では機能し得ないことを知っています。地球の危機という課題に対して、旧来の国家は何ら有効な解決策を示せませんでした。いまや、後戻りの許されない、これらの問題を解決するには、我々……」
(ラプラス爆破)


 メガラニカ 氷室(U.C.0096)
サイアム 「どうだ」
カーディアス 「予定どおり行います」
「これまで以上の混乱をもたらすことになるかも知れません」
サイアム 「あれからじきに百年が経つ」
「このままでは、地球圏は逼塞する。宇宙世紀の歪みを正してくれる者たちの胎動は、すでに始まっている。『ラプラスの箱』を託すに足りる者が、そこに在ることを願う」
カーディアス 「はい」
サイアム 「カーディアス……」
「私を……赦すか」
カーディアス 「……これでひとつの世界が終わるかも知れないのです。私以外、誰があなたを赦せるのです」
サイアム 「…………」


 メインタイトル『機動戦士ガンダムUC』


 ガランシェール 船室
フラスト(通信) 「ミノフスキー粒子、戦闘濃度散布急げ」
ギルボア(通信) 「敵艦はクラップ級と推定。熱弾を感知!」
フラスト(通信) 「回避運動」
ミネバ 「…………」

 ガランシェール ブリッジ
ギルボア 「隔壁閉鎖、遅いぞ!」
フラスト 「敵艦、高熱源体を射出。モビルスーツと推定。数は2、いや3! 急速に近づく」
ジンネマン 「マリーダを出せ。母艦は無視しろ。ガランシェールの足なら振り切れる」
 クシャトリヤ
マリーダ 「了解」
「目標補足。足の速いジェガンがいる。特務仕様かも知れない」
ジンネマン(通信) 「偶然の出会いじゃないってことだ。暗礁宙域まであと10分。片付けて帰ってこい」
マリーダ 「了解、マスター」
ジンネマン(通信) 「マスターはよせ」
マリーダ 「マリーダ・クルス。クシャトリヤ、出る」

 宇宙
《クシャトリヤ》
 VS
《スタークジェガン部隊》
マリーダ 「船は追わせない……。ファンネル!」
ジェガンパイロット 「"袖付き"め……!」
 クシャトリヤ
マリーダ 「任務完了。これより帰投する」
「…………」



 アナハイム工専 教室
バンクロフト 「このように、宇宙移民者の独立を掲げるジオン公国によって引き起こされ、実に人類の半数を死に至らしめた一年戦争は、ア・バオア・クーにおける大攻防戦をもって終結した。それがちょうど17年前。君たちが生まれる前年の出来事だ」
「戦後も、ジオン残党を名乗る集団は、幾多の戦乱を引き起こしてきた。スペースノイドの自治独立を叫ぶ彼らの根底には、ギレン・ザビの思想に通ずる選民主義が今も根強く潜んでいる。ジオン・ダイクンの提唱したジオニズム――いわゆるニュータイプ思想は結果的に、彼らのような反乱分子を生む危険な思想であったということだ」
「お前たち!」
生徒 「……!」
バンクロフト 「歴史の授業なんぞ就職の役に立たんと思ってなめるなよ! 工員といえど、アナハイムはシニア・ハイ程度の学力もないアホは雇わんのだからな。就職率100%の謳い文句を鵜呑みにしていると――」
教師 「バンクロフト先生、またシャトルが……!」
バンクロフト 「…………」

 アナハイム工専 通路
マルコ 「いい加減、買い換えればいいのにな。うちのシャトル」
タクヤ 「理事長がケチなんだろ。アナハイムの払い下げで充分、ってさ」
ミコット 「ねえ、それじゃ今日ここに泊まるの? あたし着替え持ってきてないよ」
エスタ 「あたしも」
タクヤ 「てことは、明日のカタツムリ見学は中止だな」
マルコ 「なっ! ここで2日続けてバンクロフトの特別講義なんてイヤだぜオレは」
タクヤ 「おれだったら2分でシャアの反乱まで説明できるのに。なあ、バナージ?」
バナージ 「…………」
タクヤ 「…………おっ!?」
「すげえー! ザクだ! バンクロフトめ、こういうもんがあるならはじめから教えろっての」
エスタ 「何それ、すごいの?」
タクヤ 「モビルスーツの元祖だぜ!」
エスタ 「あー……」
タクヤ 「おい待てよ! じっくり見ようや」
マルコ 「興味なーし」
エスタ 「とっくに戦争は終わってるんだし、必要ないでしょ」
トム 「撮影禁止だと思いますよ」
タクヤ 「……ロマンのない奴らだよな、実際」
 通路 窓際
バナージ 「…………」
ミコット 「ねえ、バナージってさ」
バナージ 「……?」
ミコット 「たまに遠くを見るような顔するよね」
バナージ 「そう?」
ミコット 「うん、さっきも」
バナージ 「多分それ、どこかを見てるわけじゃなくて」
ミコット 「……えっ」
バナージ 「どこにいるのかなって、考えてる時だと思う」
ミコット 「お父さんのこと?」
バナージ 「いや、自分がさ」
ミコット 「あ……ごめん」
バナージ 「何をしていても、その時を本当には過ごせていないような……」
ミコット 「それなら、私も感じてるよ。なんかズレてるような感覚のことでしょ?」
バナージ 「うん……」
「……!」
ミコット 「これからどんどん大きくなっていくんじゃないかな」
バナージ 「…………」
ミコット 「それを感じないで済むのは、ほんの一握りの、望んだ通りの人生を生きられる人たちだけ――」
バナージ 「…………!」
ミコット 「ねえ、聞いてる?」
バナージ 「……モビルスーツ」
ミコット 「……もぅっ」



 ユニコーン
パイロット 「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」
カーディアス 「もっと踏み込んでくれ」
パイロット 「は、はい!」
カーディアス 「あのデブリ群へ突っ込むつもりで頼む」
パイロット 「くっ……!」
「ごっ……!」
カーディアス 「まだだ」
パイロット 「うぬ……くっ……ご当主!」
カーディアス 「ブレイクダウン060(マル・ロク・マル)」
パイロット 「はぁ……はぁ……」
カーディアス 「さすがだな」
パイロット 「い、いえ……!」
カーディアス 「機体がだ」
パイロット 「は……」
カーディアス 「ご苦労」
オペレーター
(通信)
"RX-0 final phase all clear."
(RX-0 ファイナルフェイズオールクリア)
"Psycho Frame G-force within expected from a matters."
(サイコ・フレームの対G負荷想定内)
"Pilot's lifesign stable."
(パイロットのライフサインに異常認めず)
カーディアス 「戻るぞガエル」
ガエル(通信) 「申し訳ありません」
カーディアス 「どうした」
ガエル(通信) 「アナハイム工専の実習施設に、まだ人がいたようです」
カーディアス 「カリキュラムはチェックしたはずだが」
ガエル(通信) 「往還シャトルが故障したようで……」
カーディアス 「そうか……」
「もし誰かの目に触れたとしても―― 一瞬の幻にしか見えんだろうさ」

 メガラニカ コマンド・モジュール室
ガエル 「ルナツーにいる幕僚と連絡が取れました」
「ロンド・ベル所属の艦が"袖付き"と接触したのは、間違いないようです」
カーディアス 「やはり漏れているな。交戦はあったのか?」
ガエル 「はい、モビルスーツ3機を失った上に、逃げられたと」
カーディアス 「ほかに動きは?」
ガエル 「ロンデニオンに当たってみましたが、指令が堅物で……」
カーディアス 「ブライト・ノアといったか……」
「補給部隊を当たれ。艦隊の動きは探れる」
ガエル 「はい」
カーディアス 「全員そのままで聞いてほしい」
「これにて、RX-0の稼動試験をすべて終了する。只今をもって試験用OSをすべて削除。NT-Dを封印し、ラプラス・プログラムを起動させる」
一同 (拍手)

 執務室
カーディアス 「"赦す"か……」


 ガランシェール 外
ギルボア 「了解、5番ゲートに入ります」
 ガランシェール ブリッジ
フラスト 「さて、『ラプラスの箱』。どんな代物か」
ジンネマン 「本当にあるなら持って帰る。罠なら突破するまでだ」


 ドッキングベイ内部 中央ポート
ミネバ 「…………」
「……! くっ……!」
「うわっ……!」
 工業区画 労働者用食堂
バナージ 「……!」
タクヤ 「あー、無重力酔いしてるー。今日のカタツムリ見学は勘弁してくれぇ」
トム 「一晩中騒いでいるからですよ」
マルコ 「造成ユニットなんて見てもなあ」
エスタ 「でもさ、あの中に入れることなんて滅多にないんじゃない?」
バナージ 「…………」
「……!」
ミコット 「バナージ!?」
マルコ 「聞くなよミコット」
ハロ 「バナージ、トイレカ」
タクヤ 「先に帰っちまうぞー!」
バナージ 「やばいだろ、あれ」
 宙空
ミネバ 「……死ねない」
 プチモビ格納庫
バナージ 「……ッ」
作業員A 「!? おい、何をしてる!」
バナージ 「ちょっとこれ、お借りします」
作業員A 「貸せるかよ! おい、待て! おい! うわっ」
作業員B 「おぉ!?」
作業員A 「おーい!」
バナージ 「真空と違うな……!」
 トロハチ/宙空
バナージ 「いた! でも日の出の時間だ……まずい!」
「うぉっ……うわぁぁ! わぁ!」
ミネバ 「私は、まだ……」
バナージ 「……くっ」
ミネバ 「……ひゃっ」
ハロ 「キケン! キケン!」
バナージ 「なんとかする!」
「歯を食いしばって!」
「うぁっ」


 アナハイム工専 校庭
ハロ 「バナージ、オキロ」
バナージ 「……ぁ」
ハロ 「バナージ、オキロ」
バナージ 「うわっ! ぐっ」
「イテテテテ」
ミネバ 「誰か!」
バナージ 「何すんだよ!」
ハロ 「バナージ、ゲンキカ。バナージ」
ミネバ 「……このコロニーの人?」
「急いでるの、コロニービルダーの入り口まで送ってもらえない?」
バナージ 「カタツムリに?」
ミネバ 「これ、まだ動く?」
バナージ 「ガス欠だよ。バッテリーもろとも」
ミネバ 「時間がないの、お願い! 会って話をしなければならない人がいるの!」
「急がないと、取り返しのつかないことになる。今ならまだ止められる、だから……」
バナージ 「止めるって、何を?」
ミネバ 「戦争」
バナージ 「……!」
「待って!」
ミネバ 「……?」
バナージ 「……ひとりじゃ無理だ」


 地下鉄
バナージ 「会いたい人って、誰なの?」
「カタツムリ……コロニービルダーのこと、みんなそう呼ぶんだけど、あそこ、ただの工場だぜ。奥にビスト財団の屋敷があるって噂は、聞いたことあるけど」
ミネバ 「……知っているの?」
バナージ 「いや、おれは見たことないけど……財団の偉い人がうちの学校の理事長だから」
車内アナウンス 「お客様にお知らせいたします」
「只今、当局より治安警戒警報が発令されました。本列車は当駅にて、一時的に停車させていただきます。安全が確認され次第、運転を再開させていただきますので、しばらくお待ちください」
 地下鉄(別車両)
デニス 「またかよ」
トム 「最近、神経質になってますね」
マルコ 「ここで降りちゃおうぜ」
エスタ 「ダメよマルコ」
 地下鉄
バナージ 「……降りよう」


 エレカ内 アナハイム校庭
ジンネマン(通信) 「そのプチモビに乗っていたと思うか?」
マリーダ 「おそらく。姿を消していることから見て」
ジンネマン(通信) 「連邦の目に触れたとなれば厄介だが、そこは財団の出方で量るしかないな」
 ガランシェール(回想)
マリーダ 「申し訳ありません。私が気をつけていれば、彼女の密航を……」
ジンネマン 「気にするな」
「責めを負うとすれば、キャプテンの俺だ」
 エレカ内 アナハイム校庭
ジンネマン(通信) 「行き先は察しがつく。先回りして、カーディアス・ビストと接触する前に連れ戻せ。騒ぎにはするな」


 造成区画 付近
ミネバ 「あれが、造成ユニット?」
バナージ 「ああ。地盤ブロックを造る作業ユニット。このコロニー、まだ造ってる最中なんだよ」
「食べなよ。お腹空いてるんだろ? これなら時間が節約できる」
ミネバ 「歩きながら食べるなんて……」
「……!」
バナージ 「もうすぐ工専の見学が始まるから、紛れ込もう。そこから先はその時だ」



 造成ユニット エレベーター
ミネバ 「マリーダ……!」
マリーダ 「帰りましょう。ご自分のお立場をお考えになられ――」
ミネバ 「立場を考えればこそ、ここへ来たのです」
マリーダ 「無駄なことはおやめください」
ミネバ 「いまの私たちに、『ラプラスの箱』は使いこなせません」
「それがどのようなものであっても、フル・フロンタルに利用され、無用な争いの火種となるだけです。あなたなら分かるでしょう?」
マリーダ 「分かりません。私は命令に従うだけです」
ミネバ 「嘘。あなたに与えられた力は、本来こんなことの……」
マリーダ 「ご無礼を」
ハロ 「キケン! キケン!」
アレク 「……っ」
ベッソン 「……!」
バナージ 「手を……」
 造成ユニット 通路
ミネバ 「……!」
バナージ 「てぇっ!」
ベッソン 「ぐあっ!」
アレク 「ふぬっ」
バナージ 「てやぁ!」
アレク 「おぁっ!」
ミネバ 「急いで!」
バナージ 「え!?」
「くっ……えぇぃ!」
「はぁ……はぁ……はぁ……」


 造成ユニット
ミネバ 「どうして――」
バナージ 「名前」
ミネバ 「えっ」
バナージ 「ごめん、名前言ってなかった。おれは――」
ミネバ 「バナージ」
バナージ 「えっ」
ミネバ 「この子が呼んでたから」
ハロ 「バナージ、ガンバレ。バナージ」
バナージ 「そう、バナージ・リンクス」
ミネバ 「私は……オードリー。オードリー・バーン」
バナージ 「オードリー」
「こいつはハロ。知らない? 大戦中のエースパイロットが作った、マスコットロボットのレプリカ。子供の頃、流行ったろ?」
ミネバ 「私、田舎に住んでいたから……」
バナージ 「田舎って……」
ミネバ 「というより、根無し草ね」
「そういうふうに生まれついてしまったの」
バナージ 「なら、おれと同じだ」
ミネバ 「え……?」
 別の造成ユニット
タクヤ 「うひょー! すげえレール!」
エスタ 「うっそ、高ぁ〜い!」
マルコ 「うほっ、あの鉄骨ありえねえ!」
エスタ 「見てみなよミコット、凄いから」
ミコット 「…………」
タクヤ 「バナージ、来てなかったな」
ミコット 「うん……うちの校庭に墜落したっていうプチモビ、やっぱりそうなのかな」
タクヤ 「墜落じゃなくて不時着。なんでそんなことしたのか分からないけど、下手なこと言わねえ方がいい」
ミコット 「え?」
タクヤ 「退学なんてことになったら目も当てらんないからな。あいつ帰る家がないんだから」
ミコット 「……バナージ!?」
「誰よ、あの女」
 造成ユニット
バナージ 「君を追ってた連中、何なの?」
ミネバ 「仲間よ」
「私、逃げ出してきたの」
バナージ 「活動家か何か? その……反連邦とか、スペースノイドの自治独立とか、そういう……」
ミネバ 「そうね……でも、もっと怖いかも」
バナージ 「戦争を止めたいって言ってたよね。君は……」
 ―――――――
バナージ 「新しい地盤ブロックが継ぎ足されて、コロニーの外壁が拡張しているんだ」
ミネバ 「すごい……世界が広がっていく……!」

 メガラニカ 格納デッキ
ガエル 「ご当主。たった今、リフトの第2監視カメラが捉えました」
カーディアス 「……! なぜ、彼女が」
ガエル 「わかりません。未明に人口太陽のサービスルートへ侵入者があったとの報告は受けておりますが、よもや……」
カーディアス 「"袖付き"からの連絡は?」
ガエル 「何も」
カーディアス 「独断ということか……」
ガエル 「『箱』の引き渡しに支障をきたす恐れがあります。ビスト財団の当主ともあろうあなたが、"袖付き"の連中と直接お会いになること自体……」
カーディアス 「この……少年は?」
ガエル 「は、同行者のようです。警護にしては若い気もいたしますが」
カーディアス 「…………」



 メガラニカ 居住区
バナージ 「……!」
ミネバ 「あれだわ」
バナージ 「本当にお屋敷があるなんて」
ミネバ 「誰もいないのかしら」
「バナージ……!」
 ビスト邸 ロビー
バナージ 「どなたか、いらっしゃいませんか?」
ミネバ 「バナージ勝手に……」
 ビスト邸 大広間
ミネバ 「ユニコーン……」
バナージ 「"私の、たったひとつの望み"……」
ミネバ 「あなた、あれ読めるの?」
バナージ 「……! 何なんだこれ」
「おれ、ここを知ってる。この絵を見たことがある」
カーディアス 「お気に召しましたかな」
「『貴婦人と一角獣』。中世期以前にフランスで製作されたと思われるタペストリーです。レプリカではありません。一年戦争以前に、先代が苦労して手に入れました」
「当家の主、カーディアス・ビストです」
ミネバ 「断りなくお屋敷へ踏み入ったご無礼をお詫びいたします。私は――」
カーディアス 「存じ上げています。今はその名を口にされない方がよいでしょう」
ミネバ 「では名乗りません。私の立場さえ理解していただけるのなら、それで」
「考え直していただきたくてここへ来ました。『ラプラスの箱』を、私たちに託すというお話を」
カーディアス 「君は帰りたまえ」
バナージ 「……!」
カーディアス 「危険です。このような形で私があなたとお会いすることは」
ミネバ 「ジンネマンは慎重な男です。無用な騒ぎを起こすようなことは――」
カーディアス 「無用なことですかな。あなたをお守りすることが」
ミネバ 「なぜです。『ラプラスの箱』は、ビスト財団の反映を永く約束してきた命綱だと聞いています。それをなぜ私たちに――」
カーディアス 「……失礼。帰るように言ったはずだが?」
バナージ 「……その子は追われているんです。ひとりにはできません」
カーディアス 「この人が何故、誰に追われているのか、君は知っているのか」
バナージ 「知りません。でも、怖い人たちですから」
カーディアス 「怖い……?」
バナージ 「そう感じるんです」
カーディアス 「ニュータイプのようなことを言う」
バナージ 「彼女がそう言ったんだ!」
カーディアス 「将来を棒に振ることになるぞ。それは君をアナハイム工専に入学させた父上の本意でもあるまい」
バナージ 「どうして……」
カーディアス 「私は理事長だ。学生のことは調べられるし、素行の悪い者を除籍にすることもできる」
ミネバ 「バナージ、帰って」
「ここまで連れてきてくれてありがとう。あとは自分で出来ます」
バナージ 「オードリー……おれ、手伝うよ。君は戦争を止めに来たんだろう? この人は、そういう力がある人なんだろう? 君の言う戦争って言葉は、学校の先生が口にするのとは違う。重いんだ。怖いことなんだってわかるんだ、だからおれ……! だから……」
ミネバ 「バナージ」
バナージ 「今朝、君が空から落ちてくるのを見てすごくドキドキした」
「それまでズレていたものが元に戻って、初めて自分の居場所が見えたような気がして……。君が誰だってかまわない。おれのこと、必要だって言ってくれ。そしたらおれは……」
ミネバ 「必要ない」
バナージ 「……!」
ミネバ 「あなたは、もう私に関わらない方がいい」
バナージ 「…………」

 ビスト邸 別室
カーディアス 「正しいご判断でした」
「お仲間との取引場所を変更しました。頃合を見て、お引き合わせします」
ミネバ 「考え直してはいただけないでしょうか」
カーディアス 「あなたのご心配はわかります」
「フル・フロンタル。シャアの再来と言われる男の噂は、私どもも存じておりますから」
ミネバ 「ならば……」
カーディアス 「しかし、たとえ鍵を手にすることができても、その資質を持たぬ者に『ラプラスの箱』は開けられない」
ミネバ 「『箱』の……鍵?」
カーディアス 「そのような細工が施してあります。暴れ馬ですよ、あれは」
ミネバ 「…………」




 自動車 造成区画付近
ジンネマン(通信) 「もういい、お前は船に戻れ」
「財団から連絡があった。取引場所を中央ポートから、コロニービルダーに変更したいそうだ」
マリーダ 「彼女のことは何と?」
ジンネマン(通信) 「頬被りを決め込んでいる。何を企んでいるのか知らんが、こちらもポーカーフェイスでいくしかない」
「お前は戻って、万一の事態に備えておけ」
 インダストリアル7上空 ギラ・ズール
サボア 「あ? なんだ?」

 メガラニカ居住区 応接室
ジンネマン 「ご当主自らお出迎えとは、恐縮です」
カーディアス 「財団の命運を託そうというのです。人任せにはできません。……どうぞ」
 ギラ・ズール
サボア 「……けっ! 安モンが! ……あ?」
「……! ロンド・ベルか! なんだ、こいつら!」
 ガランシェール MSデッキ
マリーダ 「敵……?」

 応接室
ジンネマン 「鍵……ですか」
「『箱』そのものでなく、鍵だけを引き渡すと?」
カーディアス 「ご不満かな」
ジンネマン 「不満というより、わかりません」
「そもそも私らは、その『箱』とやらがどういうものかも知らんのですから。解放すれば連邦を転覆させるといわれる『ラプラスの箱』。それを隠し持つが故にビスト財団の栄華はあった。美術品のコロニー移送を行う公益法人というのは表向きの話でしょう。実際には――」
カーディアス 「あなた方の上層部が、『箱』の価値を認めた。それで、あなたのような腕利きをここへ寄越した」
ジンネマン 「鼻先にぶら下げられた餌には、食いつかずにはいられないのが我々の現状です。それがもし毒入りだったりすれば、上はさぞがっかりするでしょうな」
カーディアス 「キャプテンは、ニュータイプの存在を信じておられるかな」
ジンネマン 「戦場にいれば、そうとしか説明できない力を感じたことはありますが」
カーディアス 「"力"……身をもって感じた者ならではの言葉だ」
「宇宙に出た人類は、その広大な空間に適応するためにあらゆる潜在能力を開花させ、他者と誤解なく分かり合えるようになる。かつてジオン・ダイクンが提唱したニュータイプ論は、人の革新、無限の可能性……まさしく力を謳ったものだった」
 ギラ・ズール
《ギラ・ズール》
 VS
《リゼル部隊》
サボア 「ハァ……ハァ……畜生がッ!」
「うわあああぁぁっ!!」
「ガランシェール、敵だ! ロンド・ベルがコロニーを囲んでやがる!」

 応接室
カーディアス 「一年戦争に勝利して以来、連邦は常にその見えない力に脅かされてきたといっていい」
「地球に住む特権階級を告発する力、棄民たるスペースノイドに目覚めよと呼びかける力」
 ギラ・ズール
《ギラ・ズール》
 VS
《リゼル部隊》
サボア 「ハァ……ハァ……何ッ!?」
「うううらあぁぁぁ!!」

 応接室
カーディアス 「百年近く続いてきた連邦の支配体制を覆しかねない力……」
 ギラ・ズール
《ギラ・ズール》
 VS
《リゼル部隊》
サボア 「宇宙は……スペースノイドのもんだーッ!」
「ぐぅ……ぼぉッ……!?」
 応接室
カーディアス 「その見えない力との戦いに、連邦はこの数十年明け暮れてきた」
 ギラ・ズール
《ギラ・ズール》
 VS
《リゼル部隊》
サボア 「ち……地球に……魂を繋がれた犬どもがぁッ!」
「ネオ・ジオン万歳あぁい!!」
 クシャトリヤ
マリーダ 「……!」
ギルボ(通信) 「なんだ、爆発か!?」
マリーダ 「ギルボア、キャプテンとの連絡は?」
ギルボア(通信) 「途絶した。ミノフスキー粒子が濃くなっている」
マリーダ 「中で仕掛けるのか」
ギルボア(通信) 「外は敵だらけだ。中を突っ切るしかない。キャプテンを探してここを出る」
マリーダ 「……了解」

 応接室
カーディアス 「一方では、公的な研究機関も作られたが、あれはニュータイプの持つ兵器的側面のみを人工的に強化するマッド・サイエンティストの実験場だった」
「グリプス戦役という内乱……そして、二度にわたるネオ・ジオン戦争。行き過ぎた弾圧が招いた軍閥の台頭は、連邦を大いに疲弊させたが、最終的な勝利を約束する強い味方が彼らにはあった」
「お分かりかな?」
ジンネマン 「時間ですか」
カーディアス 「左様」
「常に結果だけを求める大衆は、明確な定義を持たず可能性しか示さないニュータイプに飽きた。その呼び名はいつしか撃墜王と同義になって、"誤解なくわかりあえる人"というジオン・ダイクンの概念からもっとも遠い存在とされてしまった」
 月側機密壁付近 眺望エリア
デニス 「お、おい、あれ見ろよ!」
ミコット 「ねえ……あれ何?」
 応接室
カーディアス 「『ラプラスの箱』には未来を変える力がある。いや、本来あるべきだった未来を取り戻す力というべきか。ただし、誰にでも扱えるというわけではない。あれは使い方を誤れば、世界を滅ぼしてしまうものだ」
ジンネマン 「だからまず鍵を渡して試そうと?」
カーディアス 「もしも、あなた方がひとつ事にこだわる狭隘な主義者なら、『箱』がその中身を明かすことはないだろう」
ジンネマン 「ひとつ事とは?」
カーディアス 「ジオンの再興」
(振動)
一同 「……!」
 インダストリアル7 上空
《クシャトリヤ》
 VS
《ジェガン部隊》
 応接室
ガエル 「ロンド・ベルです。すでにコロニー内で戦端が開かれているとのことです」
カーディアス 「軍との連絡は?」
ジンネマン 「我々は嵌められたと、いうことですかな?」
カーディアス 「あなた方が追跡されたのではないかと言いたいが……水掛け論だな」
ジンネマン 「彼女を返していただく」
カーディアス 「最初からそのつもりだ。あの方は、私の屋敷で保護している」
ジンネマン 「人が人を信じるのは本当に難しい。残念です……ご当主」
カーディアス 「同感だ、キャプテン」

 避難ブロック
バンクロフト 「避難させろ!」
 クシャトリヤ
《クシャトリヤ》
 VS
《ジェガン部隊》
マリーダ 「まとわりつくな!」
「重いんだ……」
「……!」
 避難ブロック
バンクロフト 「早く!」

 月側機密壁付近 眺望エリア
マルコ 「コロニーに穴が開いた……」
トム 「あれ学校がある辺りですよ……」
タクヤ 「戦争だ……。戦争やってんだよ、あれ」
バナージ 「戦争……」
「オードリー……!」
ミコット 「待ってよバナージ!」
タクヤ 「あ、おい!」
生徒一同 「う……うわぁぁっ!」
 インダストリアル7
《ロト》 出撃
 ビスト邸 貴賓室
ミネバ 「……っ!」

 応接室
ガエル 「ご当主!」
カーディアス 「残念だ。百年の盟約といっても脆いもの、連邦はこの機に全てを持ち去るつもりだ。もっとも、先に反故にしようとしたのはこちらだが……」
「ガエル! あれを連邦の手に渡してはならん!」

 インダストリアル7上空
《ネェル・アーガマ》 攻撃
《リゼル R008》 出撃


 メガラニカ 隔壁付近
トム 「ダメなんですか!?」
タクヤ 「くっ……おい! 開けてくれ!」
 インダストリアル7 上空
《クシャトリヤ》
 VS
《ジェガン》
 メガラニカ 隔壁付近
バナージ 「……!」
タクヤ 「おい……バナージ!」
「ミコットは? 怪我してないか!? みんなは――」
バナージ 「タクヤ!」
 インダストリアル7 上空
《クシャトリヤ》
 VS
《リゼル隊長機》
 メガラニカ 隔壁付近
ミコット 「エスタ……マルコ、デニス、トム……みんな……」
バナージ 「ミコット!」
ミコット 「どこに行ったのよおおぉぉ――っ!!」
バナージ 「タクヤ、ミコットを頼む」
タクヤ 「お前は?」
バナージ 「助けたい人がいるんだ」
タクヤ 「えっ」
バナージ 「今ここを突き破ったモビルスーツ、どこの機体だ?」
タクヤ 「ゼータ系の可変機、だったような……連邦だと思う」
バナージ 「なら、カタツムリにその母艦がいるはずだ。保護してもらえ!」
ミコット 「バナージ! 置いていかないで! 離ればなれはイヤぁっ! バナージぃ――!!」


 コマンド・モジュールへと続く通路
ガエル 「特殊部隊のようです! コマンド・モジュールも、おそらく……」
カーディアス 「ならば、直接プログラムを消去しよう。そしてユニコーンを……」
ガエル 「ご当主! 先に!」
 工場ブロック
ミネバ 「ハァ……ハァ……ハァ……!」
 インダストリアル7 上空
《クシャトリヤ》
 VS
《リゼル隊長機》
 通路
カーディアス 「なぜ……こんな」
「……!」
「お前か、アルベルト……」
 別の通路
バナージ 「……ぁっ!」
ジンネマン 「子供はいい」
(発砲)
バナージ 「……!」
ジンネマン 「マリーダと連絡はつかんのか」
 通路
カーディアス 「マーサの差し金か」
「軍を利用したつもりだろうが、利用されているのは……」
エコーズ隊員 「ぐッ!」
アルベルト (発砲)
カーディアス 「かっ……! アルベルト……」

 クシャトリヤ
マリーダ 「姫様……」
 工場ブロック
ミネバ 「マリーダ……!」
 クシャトリヤ
マリーダ 「……!」
 インダストリアル7
《クシャトリヤ》
 VS
《ロト部隊》

 工場ブロック
ハロ 「ハロー、オードリー」
タクヤ 「ハロ!」
ミネバ 「……バナージ!?」
タクヤ 「民間人か! こっちはダメだ!」
ミコット 「あなた……!」
タクヤ 「……! 知ってんの?」
ミコット 「あ、ううん!」

 クシャトリヤ
《クシャトリヤ》
 VS
《ロト》
マリーダ 「……チッ」
 工場ブロック
タクヤ 「すげえ……。うわぁっ!」
「助かった……連邦の機体だ……。RGZ-95 リゼルだぜ、ミコット」
「おれたち、工専の学生です! コロニーに穴が開いて、逃げてきたんです。保護を願います!」
 メガラニカ 通路
バナージ 「オードリー……」



 メガラニカ MSデッキ
バナージ 「これ……」
「……あっ」
カーディアス 「ガエル、無事だったか。……!?」
「君か……」
バナージ 「彼女は……オードリーはどこです!」
カーディアス 「生きてはいよう。幾度も死地を乗り越えている方だ」
バナージ 「まさか、置き去りに!? このモビルスーツで、自分だけ逃げるつもりだったんですか!」
カーディアス 「逃げても……長くはもたん」
バナージ 「何なんだよ、あんた! 偉そうなことばかり言って、何も出来ないんじゃないか!」
「オードリーは戦争を止めるために、あなたに会いに行った。あなたには、その力があったんじゃないんですか!? みんな、明日の予定だって、来週の予定だってあったんだ。あんなの……人の死に方じゃありませんよ! 少なくとも母さんは……僕の母は違いました! もっと厳かだった、少なくとも――」
カーディアス 「人は動物とは違う……」
「人の死は、無下であってはならん。なのに、我々大人は無益な血を流しすぎた。そればかりか地球を食いつぶし、宇宙に捌け口を求めてきた。今こそ人は、自らを律し、尊厳を取り戻さねば……。百年前に紡がれた希望を生かすために……」
バナージ 「"内なる可能性を以て……人の人たる力と優しさを世界に示す……"」
カーディアス 「"人間だけが神を持つ。今を超える力……可能性という内なる神を"」
「ここまで来た、その気持ちが揺らがぬ自信はあるか」
バナージ 「えっ……」
カーディアス 「彼女が背負っているものは重いぞ.。共に行くには、この世界の重みを受ける覚悟がいる。それでも……」
バナージ 「自信とか覚悟なんて、ない。おれは彼女に必要とされたいだけなんです」
カーディアス 「ならば、これを持って行け……」
バナージ 「……!」
カーディアス 「これでもう、こいつはお前の言うことしか聞かん。お前を相応しい乗り手と判断すれば、ユニコーンは無二の力を与える。『ラプラスの箱』への道も開くだろう」
バナージ 「『ラプラスの箱』……?」
カーディアス 「我らがビスト一族を百年にわたり縛り続けてきた呪縛……だが使いようによっては、この宇宙世紀に光明をもたらす」
バナージ 「それは……」
カーディアス 「アンナは……」
バナージ 「……!」
カーディアス 「この呪縛にお前を取り込ませたくないと、私の前から……」
「恨むだろう、アンナ。そしてお前も……だが行け。恐れるな。自分の中の可能性を信じて、力を尽くせば……道は自ずと拓ける」
バナージ 「そんな……いまさら勝手ですよ」
カーディアス 「赦してほしい……」
「お前とはもっと……もっと……」
「バナージ……」
(私の、望みは……叶ったよ……アンナ……)
バナージ 「父さん――!」
 ユニコーン
バナージ 「父さんって……おれ、今……おれの……」
 「" 私のたったひとつの望み、可能性の獣、希望の象徴……"」
「父さん、母さん、ごめん。おれは……」
「行くよ」
「オードリー……」
 救助ポッド
ミネバ 「……! バナージ……」
 クシャトリヤ
マリーダ 「姫様……!?」

 ユニコーン/クシャトリヤ
《ユニコーンガンダム》
 VS
《クシャトリヤ》
マリーダ 「……ッ! ……ファンネル!」
バナージ 「くっ……うぁ……!」
「ここから……」
「ここから……出て行けえ――!」
マリーダ 「……墜とせる!」
【《ユニコーン》 NT-D発動】
バナージ 「……!? うわ、うわぁぁ! ああぁぁー!!」
マリーダ 「……!」

 救助ポッド
ミネバ 「……ガンダム」


 サブタイトル episode1「ユニコーンの日」


 エンドロール 主題歌:流星のナミダ


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