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episode2「赤い彗星」
発売:2010年11月12日 脚本:むとうやすゆき 監督:古橋一浩 絵コンテ:村田和也/古橋一浩 演出:村田和也 総作画監督:高橋久美子/玄馬宣彦


 メインタイトル『機動戦士ガンダムUC』


 ユニコーン
【《ユニコーン》 NT-D発動】
バナージ 「……!? うわ、うわぁぁ! あぁぁ――!!」
「……!!」
 救助ポッド
ミネバ 「……ガンダム」
 クシャトリヤ
《ユニコーンガンダム》
 VS
《クシャトリヤ》
マリーダ 「あいつ、全身がサイコフレームでできているのか!」
 リゼル(R008)
通信 「間違いない。一本角の所属不明機が変形、いや、変身した」
「あれは、ガンダムだ!」
リディ 「ガンダム……」
 救助ポッド
タクヤ 「本当だ……本当に、ガンダムだ」
ミコット 「ガンダム……?」
タクヤ 「連邦が最初に開発したモビルスーツ……ジオンに、白い悪魔って呼ばれていた……」
 ネェル・アーガマ ブリッジ
通信 「ブリッジ、現在"袖付き"の四枚羽根と交戦中の機体は確かに、ガンダムタイプと思われる!」
オットー 「ガンダムだとぉ!?」

 クシャトリヤ
マリーダ 「ガンダム……ガンダム……」
「ガンダムは……敵!」
「くっ……はああぁぁぁぁ――! ……ッ!?」
「はっ……」
 ガランシェール ブリッジ
ジンネマン 「…………」
 クシャトリヤ
マリーダ 「……はッ」
【《ユニコーンガンダム》 NT-D解除】

 ユニコーン
通信 「所属不明機、聞こえるか。応答せよ」
「搭乗者及び、機体の所属と戦闘目的を明らかにされたい。繰り返す……」


 ガランシェール ブリッジ
アンジェロ(通信) 「失態だな。スベロア・ジンネマン」
「『ラプラスの箱』を手に入れられず、姫様の身もお助けできなかったとは」
ジンネマン 「すべては不慮の事態でした。この上は静観し、姫様からの連絡を待つほかないかと」
アンジェロ(通信) 「何もせずにいるというのか……!」
フロンタル(通信) 「アンジェロ大尉」
アンジェロ 「……!」
フロンタル(通信) 「マリーダを退けたという敵……ガンダムだと聞いた」
「興味深いな。私が出るしかないかも知れん。ガランシェールは、連邦の艦の動向を探れ」
ジンネマン 「はっ」
「この失態、一命に賭けて償う所存であります」
フロンタル(通信) 「過ちを気に病むことはない。ただ認めて、次の糧にすればいい」
「それが、大人の特権だ」


 サブタイトル episode2「赤い彗星」


 ユニコーン
バナージ 「うッ……」
「くッ……うぅ……!」
「母さん……」


 リゼル R008
ノーム(通信) 「リディ。お前は運が強かったんだ」
リディ 「…………ッ」
ノーム(通信) 「臆病だから生き残ったわけじゃないし、勇敢な奴が死んだわけでもない。両者を分けたのは、運だ」
リディ 「はい……ノーム隊長」
ノーム(通信) 「接近中の艦、ただちに停船せよ]
「こちらは連邦宇宙軍ロンド・ベル所属ネェル・アーガマ。貴船は、本艦の防衛線に侵入している」
リディ 「テロリストどもが!」
ノーム(通信) 「待て」
リディ 「……あっ」 

 ネェル・アーガマ ブリッジ
オットー 「ゴミだぁ!?」
ノーム(通信) 「サラミス級の残骸と推定。予備電源が生きており、熱源センサーが誤認したようです」
オットー 「アラート解除、部署復旧。モビルスーツ隊を帰艦させろ」
レイアム 「いいんですか」
オットー 「何か問題があるか」
ダグザ(通信) 「デブリを誤認、ですか……」
オットー 「あーそうだ。敵でなくて幸いだった」

 ネェル・アーガマ MSデッキ/ブリッジ
ダグザ 「敵は必ず来ます」
「連中は、我々が『ラプラスの箱』なるものを回収したと思っています。あの四枚羽根のモビルスーツが健在である以上……」
オットー 「のんびり増援を待っているわけではないと」
ダグザ(通信) 「そうです」
 
ダグザ 「開かないのか」
アーロン 「これほど外部からの干渉を拒むシステムになっているとは……」
ダグザ 「担当以外のことは、何も教えられていなかったわけだな」
アーロン 「はい」
アーロン(通信) 「開発がビスト財団の管轄に置かれてからは、"UC計画"の全体像は誰にも――」
アルベルト 「おい! そこで余計なことを喋るんじゃない!」
ボラード 「回線切れてます」
アルベルト 「チィっ…!」
ダグザ 「UC計画とは何だ」
アーロン 「えっ……」
ダグザ 「我々エコーズだけで尋問できるかわからん。アナハイムの客人はトップダウンでねじ込んでくるだろうからな」
アーロン 「は……」
「UC計画……宇宙軍再編計画の枠内で、極秘裏に進められてきたプロジェクトです。このユニコーンはそのフラッグシップ機で、全身にサイコフレームを使用しており、それがサイコミュを補助してパイロットの感応波がダイレクトに駆動系に送り込まれる……」
ダグザ 「つまり、思考だけで機体をコントロールできるということか」
アーロン 「……(コクリ)」
ダグザ 「だがそれでは、パイロットの身体がもたいないな」
アーロン 「……ええ」
「NT-D発動後の限界稼働時間は、5分と言われています」
ダグザ 「その、NT-Dというのは」
アルベルト 「ダグザ隊長!」
「救助したスタッフの聴取には……ぅぉぉ……私も立ち会わせろと言ったはずだぁぁぁ」
ダグザ 「オットー艦長」
「単艦突破で、この宙域を離れた方が懸命です。回収したガンダムタイプは、『ラプラスの箱』に関係している可能性が高い。一刻も早く、ルナツーに回航してください」
オットー 「しかしだな……」
アルベルト 「賛成ですな! 艦長!」
「ただし行き先はルナツーじゃない。我がアナハイム・エレクトロニクスの拠点……月のフォン・ブラウンだ」


 ネェル・アーガマ 艦内通路
艦内アナウンス 「現在、本艦は第二配備中……警戒閉鎖区画に――」
ミヒロ 「しばらく、ここで待っていて」
リディ 「……ん?」
ミネバ 「ガンダムに誰が乗っていたのか、まだわからないんですか?」
リディ 「……!」
ミヒロ 「ええ、コックピット・ハッチが開かないらしいの」
リディ 「君!」
ミネバ 「……?」
リディ 「怪我はなかった?」
ミネバ 「……!」
リディ 「あ……、君たちを運んだパイロット。リディ・マーセナスっていう」
ミネバ 「オードリー・バーンといいます」
リディ 「見に行ってみる?」
ミネバ 「えっ」
リディ 「あのガンダム、気になるんだろ?」
ミヒロ 「リディ少尉!」
リディ 「大丈夫だよ、ミヒロ少尉。こっそり覗ける場所、知ってんだ」
ミヒロ 「そういう問題じゃ――」
タクヤ 「行く行く!」
リディ 「!?」
タクヤ 「このネェル・アーガマって、第一次ネオ・ジオン戦争でガンダム部隊の母艦になってた艦ですよね? 因縁だなぁ! 新しいガンダムを載せるなんて!」
リディ 「あ、あぁ……」
タクヤ 「ほら、ミコットも行こうぜ!」
ミコット 「……うん」
タクヤ 「……ぁ」
ミヒロ 「私も行くわ」
リディ 「えっ」
ミヒロ 「あのガンダムがいなければ、私たちは全滅させられていたかも知れない」
「私も、誰が乗っていたのか知りたい」


 ネェル・アーガマ ブリッジ
アルベルト(通信) 「地球を挟んで反対側のルナツーと違って、月は目と鼻の先だ」
ダグザ 「月に向かうことは、敵も予測している。遠回りでも、ルナツーへ針路をとった方がいい」
アルベルト(通信) 「そのルートなら、残った戦力で突破できるのではないかな? 隊長はいささか、焦っておられるようだ」
ダグザ 「増援が望めなければ、焦りもします。今次作戦では、軍の指揮系統に民間からの圧力がかかっているようですから」
アルベルト(通信) 「どんな命令でも遂行するのが軍人の務めだろう」
オットー 「通信を切れ……」
アルベルト(通信) 「作戦の失敗を我々の責任にされてはこま――」
オットー 「早くしろ!」
「作戦中はエコーズが好きにやるのを認めたが、送り迎えまで口出しされるいわれは無い。あの小うるさいアナハイムの重役にもな」
レイアム 「聞こえるように、言っていただかないと」
オットー 「ぬぅ……」
「……ん!?」
サーセル 「先刻の残骸が、減速した模様。相対速度、ゼロコンマ」
ダグザ 「一年戦争の亡霊にとり憑かれたな」
オットー 「モビルスーツ隊に排除させろ! この大きさなら押し出せるはずだ」
レイアム 「帰艦していますが」
オットー 「え、なにっ」
レイアム 「そういうご命令でしたので」
オットー 「ぐぬぅ……」
レイアム 「もう一度、反撃命令を出しますか?」
オットー 「ぬっ……だったら主砲で撃ち落とせぇ!」
 ガランシェール ブリッジ
ギルボア 「ドンピシャ」
「これで敵さんの位置はバッチリです」
ジンネマン 「レウルーラに連中の座標を伝えろ」
「お手並み拝見といこう」


 ネェル・アーガマ クレーン操作室
ミコット 「あれが、ガンダム……?」
タクヤ 「そうらしいけど……形が全然違うよなぁ」
リディ 「君の顔……どこかで見た気がするな」
ミネバ 「……!」
リディ 「…………」
ミネバ 「…………」
リディ 「……そうだ!」
ミネバ 「……っ」
リディ 「女優のナツメ・スワンソン! 似てるって言われない?」
ミネバ 「あ、芸能界のこと、あまり知らなくて……」
リディ 「あぁ、そう……」
タクヤ 「あ! 少尉さん!」
リディ 「……?」
 ネェル・アーガマ MSデッキ
アーロン 「ハッチ、開きます!」
一同 「……!」
 ネェル・アーガマ クレーン操作室
ミコット 「……えっ」
タクヤ 「バナージ!? なんで!」
リディ 「パイロットじゃないのか!?」



 ネェル・アーガマ 医務室
バナージ 「……ぁ……っ」
ハロ 「バナージ バナージ」
ミコット 「……!」
タクヤ 「……! 先生!」
ハサン 「ん?」
ミコット 「バナージ!」
タクヤ 「おい、大丈夫か!?」
バナージ 「ハァ……ハァ……オードリー……」
ミコット 「えっ」
ハサン 「バナージくん、聞こえるか。聞こえていたら、手を握ってくれ」
ミヒロ 「ブリッジ、ミヒロです。少年の意識が戻りました。……ダグザ中佐!?」
ダグザ 「事情を聞きたい。君たちは外してくれ」
ミヒロ 「ですが、まだ……」
ハサン 「最低限の治療はさせてくれ。彼はまだ、ここがどこなのかもわかっていない」
ミコット 「怪我だってしているんですよ!」
ダグザ 「この少年は、民間人の立場で軍用モビルスーツを使い、戦闘状況にも介入した。極刑も適応されうる、重大な違法行為だ」
タクヤ 「極刑って……」
ミヒロ 「私たちは、彼に助けられたんじゃないですか!」
ダグザ 「機体を私物化してな」


 レウルーラ ブリッジ
アンジェロ 「我々は出撃準備に入る。艦長たちは、ここで見物していればいい」
ヒル 「今回は『ラプラスの箱』とやらが関係しているのだろう? 回収にエコーズが動員されるほどの機密なら……」
アンジェロ 「連邦が隠密に動かせる戦力には限りがある。今ごろは、対応を決める話し合いが持たれているだろうさ。責任を取りたくない責任者たちの間でな」
ヒル 「だといいが」
アンジェロ 「増援の気配はないんだろう? 請け合うよ」
ヒル 「……ふんっ」
 レウルーラ MSブリッジ
アンジェロ 「今日は大佐が出撃をする。我々の仕事はないよ」


 ネェル・アーガマ 医務室
ダグザ 「納得しがたい話だ」
「カーディアス・ビストが、君のような少年にあれを託したとは。他に何か君に言い残したことは?」
バナージ 「ですから、あのモビルスーツを使ってみんなを助けろって……それだけです」
「……父親だと言ったら、納得するんですか」
ダグザ 「……ん? ……うぁっ!」
バナージ 「あっ……!?」

 ネェル・アーガマ ブリッジ
一同 「うわあぁぁ!」
レイアム 「緊急発進! 急速回頭!」
オットー 「損傷確認急げ! 対空監視!」
サーセル 「周辺に敵影なし!」
オットー 「よく捜せ!」
レイアム 「はめられましたね……」
アルベルト(通信) 「こんなところでモタモタしているから」
オットー 「切れ!」
アルベルト(通信) 「こういうことになるん――」
サーセル 「高熱源体、急速に近づく! 数は4! 本艦直上より接近!」
オットー 「ミサイルか!?」
サーセル 「いえ、この動きは……」
「モビルスーツですが……デブリの中を……!? ありえない! 先頭の1機は後続機の……3倍の速度で接近中!」

 シナンジュ
フロンタル 「見せてもらおうか、新しいガンダムの性能とやらを」

 ネェル・アーガマ 医務室
バナージ 「……!?」
艦内アナウンス 「総員、対空戦闘態勢用意!」
バナージ 「コロニーを襲った連中が来たのか……?」
 ネェル・アーガマ レクリエーションルーム
ミコット 「もう嫌よこんなの!」
タクヤ 「ミコット! ノーマルスーツを探そう。こりゃいつ艦に穴が開くか……」
ミヒロ 「みんな、これを着て!」
「あれ? もうひとりの子は!?」

 ネェル・アーガマ 艦内通路
ミネバ 「……ッ」
ダグザ 「君、どこへ行く。ノーマルスーツを着けて、避難していなさい」
「……!?」

 ネェル・アーガマ ブリッジ
《ネェル・アーガマ》
 VS
《シナンジュ》
オットー 「対空防御! 何やってる!」
砲術長 「予調測がまだ……」
オットー 「いいから撃ちまくれ!」

 ネェル・アーガマ 艦内通路
艦内通信 「R008出せるぞ! パイロットはモビルスーツ・デッキへ急げ!」
バナージ 「……! あの、これ」
リディ 「……? あぁ! すまない」
「気がついたのか」
バナージ 「えっ」
リディ 「命拾いするかもな」
「おれのお守りなんだ。休んでいてくれ。君の手は煩わせない。おれたちの艦は、おれたちの手で守るさ」
(あんな子どもが、ガンダムを……)
 
ミネバ 「バナージ」
バナージ 「……! オードリー」
ミネバ 「バナージ、よく聞いて」
バナージ 「えっ」
ミネバ 「あの機体には、あなたの生体データが登録してある」
「あなたでなければ動かせないってことね」
バナージ 「そうらしいけど……。でも、どうして君がそれを……?」
ミネバ 「私と逃げて」
 ネェル・アーガマ モニター室
艦内通信A 「後部主砲、大破!」
艦内通信B 「左舷7番、隔壁破損!」
ボラード(通信) 「ミヒロ少尉、早くブリッジへ!」
コンロイ 「……うぉっ」
「素人どもめ!」
ダグザ 「この艦が例の『箱』を載せていると思っているなら、機関の直撃は狙わず、無力化して奪おうとするはずだ」
コンロイ 「しかし、モビルスーツ1機でそんなことが……」
「……! これは……」
ダグザ 「この艦は奴らにとって、『箱』に匹敵するものを載せている」
 ネェル・アーガマ 艦内通路
ミネバ 「今なら逃げられる。インダストリアル7に戻って」
「貨物船か何かに潜り込んで、あなたは他のサイドへ行って身を隠すの」
バナージ 「…………」
ミネバ 「私は、あの機体を処分する方法を考える」
バナージ 「オードリー……」
ミネバ 「そうしなければ……」
「あれは危険なものよ。誰にも渡すわけにはいかない」
バナージ 「ちょっと、待ってくれよ」
ミネバ 「詳しいことは後で話すから!」
バナージ 「何も知らされないで、決められるわけないだろう!」
「そんな話し方で人を従わせようとするのは、ずるいよ……」
ミネバ 「えっ」
バナージ 「しなければならないことじゃなくて、君がやりたいことを……君自身がどうしたいのかを教えてよ! そしたら、おれ……」
「……!」
ミネバ 「ぅ……」
バナージ 「何を!」
ダグザ 「わかっているな」
ミネバ 「…………」
バナージ 「オードリー!」

 リゼルR008
ミヒロ(通信) 「艦首、針路固定」
「第1から第4までカタパルト・ハッチ解放。モビルスーツ隊、射出位置へ!」
リディ 「…………」
ホマレ(通信) 「ビビってんじゃねえのか、お坊ちゃん?」
リディ 「ホマレ中尉こそ、声がうわずってますよ?」
ホマレ(通信) 「へっ……言ってくれるじゃねえか」
ノーム(通信) 「ノーム・バシリコック、R001(ロメオ・ワン)、出る!」
ガロム(通信) 「ガロム・ゴルガ、J002(ジュリエット・ツー)、出る!」
リディ 「リディ・マーセナス、R008(ロメオ・エイト)、行きます!」

 ネェル・アーガマ ブリッジ
《リゼル部隊》
 VS
《シナンジュ》
艦内通信 「左舷カタパルトデッキ、大破!」
ミヒロ 「ホマレ中尉!」
オットー 「損傷確認急げ!」
アルベルト 「早く逃げるんだ! 月へ!」
レイアム 「アルベルトさん、ここは危険です!」
アルベルト 「あれはシナンジュだ! 赤い彗星だ! 勝てるわけがない!」
オットー 「…………」
アルベルト 「2年前、月のグラナダからフォン・ブラウンの試験場へ搬送中の我が社の実験用モビルスーツMSN-06Sがネオ・ジオンに強奪された。追跡に当たった連邦軍の部隊が返り討ちに遭い、全滅させられた。その主犯と目されているのが、フル・フロンタル。赤い彗星……シャア・アズナブルの再来と言われている男だ!」
レイアム 「聞いたことがあります。たった1機で2隻のクラップ級を沈めた"シャアの亡霊"……」
オットー 「シャアは第二次ネオ・ジオン戦争で、消息不明になっている!」
アルベルト 「とにかく! なまじのモビルスーツが戦って勝てる相手ではない! ユニコーンもシナンジュで採取したデータをもとに造られているんだ。早くここから逃げろ!」
オットー 「逃げようにも、背中から撃たれます」
「照合データ、各部に転送! 敵は亡霊でも何でもない。モビルスーツ隊にも知らせ!」
アルベルト 「このわからず屋め!」
オットー 「あんたに言われたかあない!」
「……!」
ミネバ 「…………」

 リゼルR008
《リゼル部隊》
 VS
《シナンジュ》
リディ 「そこだ!」
ノーム(通信) 「焦るな、リディ少尉。隊列を維持しろ」
リディ 「くッ……」
ノーム(通信) 「ガロム、下だ!」
ガロム(通信) 「本物のシャアだとでも……」
 アンジェロ専用ギラ・ズール
セルジ(通信) 「アンジェロ大尉、敵は複数です。せめて援護射撃を……」
アンジェロ 「我々はここに控えていればいい、セルジ少尉」
「大佐の邪魔になるだけだ」
 リゼルR008/ネェル・アーガマ ブリッジ
リディ 「こんなんじゃ、みんな……!」
ダグザ(通信) 「攻撃中の敵機、聞こえるか」
「ただちに攻撃を中止せよ。本艦は、ミネバ・ザビを捕虜にしている」
リディ 「えっ!?」
ダグザ(通信) 「繰り返す」
ダグザ 「本艦はザビ家の遺児、ミネバ・ラオ・ザビを捕虜にしている。攻撃が中止されなければ、身の安全は保証できない」
 ネェル・アーガマ 一室
タクヤ 「あの子が、ジオンのお姫様!?」
ダグザ(通信) 「我々には交渉の用意がある。賢明なる返答を待つ」


 シナンジュ/ネェル・アーガマ ブリッジ
フロンタル 「映像は確認した」
フロンタル(通信) 「私は、ネオ・ジオンのフル・フロンタル大佐だ。要求を聞こう」
ボラード 「シャアの声だ……」
ダグザ 「連邦宇宙軍特殊作戦群エコーズの、ダグザ・マックール中佐だ」
「攻撃を中止して、速やかに撤退願いたい。そうすれば、ここにいるミネバ・ザビの安全は保証する」
フロンタル(通信) 「返してはもらえないのかな?」
ダグザ 「交渉の用意はある。本艦が安全と判断する場所まで移動した後という条件はつくが……」
フロンタル 「捕虜ではなく人質というわけだ」
フロンタル(通信) 「だが、そこにいるミネバ様が本物であるという確証もない」
ダグザ 「赤い彗星の再来といわれる程の男が、ずいぶんと慎重なことだ」
フロンタル(通信) 「我々は、そちらが定義するところのテロリストだ。軍と認められず、国際法の適応も期待できないとなれば臆病にもなる」
 リゼルR008
ダグザ(通信) 「我々は人権は尊重する」
リディ 「…………」
 ネェル・アーガマ ブリッジ
フロンタル(通信) 「民間のコロニーに特殊部隊を送り込んでおいて、よく言う。まして貴艦は、人質を盾にとっている身だ」
ダグザ 「…………」
フロンタル(通信) 「では今度は、こちらの要求を言う」
「インダストリアル7より回収した物資、及び、『ラプラスの箱』に関するデータをすべて引き渡してもらいたい」
アルベルト 「なっ……!」
ダグザ 「見返りは?」
フロンタル(通信) 「以後の安全な航海……ということでは不服かな?」
ダグザ 「不服はないが、応じようがない。我々は『ラプラスの箱』なるものを持っていない」
フロンタル(通信) 「ガンダムタイプのモビルスーツを回収しているはずだが」
ダグザ 「あれは連邦軍の資産だ。『箱』とは関係がない」
フロンタル(通信) 「要求が受け入れられないなら、貴艦は撃沈する」
ダグザ 「捕虜の命は無視するというのか?」
フロンタル(通信) 「不確定要素に基づいた交渉には応じかねる」
「3分待とう。賢明なる判断を期待する」
ダグザ 「…………」
 
ダグザ 「ブラフだ。ジオン残党の星を、見捨てるわけがない」
ミネバ 「それはどうかしら」
「フル・フロンタルは、あのシャア・アズナブルかも知れないと言われている男です。ジオン・ダイクンの遺児が、親の仇であるザビ家の末裔を大事にするはずがない」
ダグザ 「そのおっしゃりようこそ、ミネバ・ザビご本人のものと思えますな」
ミネバ 「…………」
ダグザ 「"袖付き"の中にも、ザビ家を信奉する者は多いはずだ」
ミネバ 「そう信じるなら、益のない交渉を続けるがよい」
「だが、ジオンの武人は貴公らほど甘くはないぞ。ジオンの軍人なら、この間に『ラプラスの箱』に繋がるものは処分することを考える」
アルベルト 「おぉそうだ! 今のうちに、ユニコーンの電装部品を破壊しておこう! あれは鍵であって、『箱』そのものではない! あれを壊してしまえば、『箱』の安全は……ごもっ……ぐっ……! ……!」
ダグザ 「チッ」
アルベルト 「かはッ……ハァ……ハァ……」
ミネバ 「連邦の軍人の矜持、見せてもらおう」
「ダグザ・マックール中佐。その勇気があるなら、鍵を壊し私を殺すがいい。さすれば、鍵と私の喪失によって、ネオ・ジオンに打撃を与えることはできる。あるいは、このまま何もせずにすべてを奪われるか。もう猶予はないぞ」
ミネバ 「…………」
バナージ 「オードリー!」
「そんな話し方をしちゃダメだよ。人も自分も追い詰める」
ミネバ 「バナージ……」
バナージ 「ここを出よう。君はこんなことに関わるべきじゃない!」
ミネバ 「私はミネバ・ザビである」
バナージ 「オードリーだよ!」
「嘘でも本当でも、おれにはオードリー・バーンだ」
ダグザ 「やめないか。子供の理屈が通る時ではない」
バナージ 「子供って……オードリーはどうなんです!」
ダグザ 「彼女は、ネオ・ジオンの要人だ」
バナージ 「おれが子供なら、オードリーだって子供だ!」
「子供を人質にするなんて、大人のやることですか!」
フロンタル(通信) 「時間だ。返答を聞こう」
一同 「…………」
オットー 「…………」
バナージ 「…………」
フロンタル(通信) 「了解した。貴艦は撃沈する」
オットー 「来るぞぉ!」
「対空防御! モビルスーツ隊各個、迎撃に当たれ」
バナージ 「『箱』なんて……」
「『箱』なんて渡しちゃえばいいでしょう!? 何なのかわからないもののために、人が大勢死ぬなんて……!」
ダグザ 「では君は責任をとれるのか?」
バナージ 「…………」
ダグザ 「『ラプラスの箱』には、連邦を覆す何かが隠されているといわれている。それがネオ・ジオンの手に渡り、より多くの人の命を奪う結果を招いてしまった時、君は、なんと言って死者や遺族たちに詫びるつもりだ」
バナージ 「…………ッ」
ダグザ 「続けろ」
コンロイ 「攻撃を中止せよ! さもなくばミネバ・ザビを処刑する! これは脅しではない! ただちに攻撃を中止せよ!」
バナージ 「あの赤いモビルスーツをやっつければ……オードリーを人質にしなくて済むんでしょう!? やりますよ!」

 リゼルR008
《リゼル》
 VS
《シナンジュ》
リディ 「退がれ! 退がれよ!」
ノーム(通信) 「リディ!」
リディ 「貴様がいなければ、こんな……テロリスト相手に、人質なんかとってさあ!」
「ぁっ……!」
ノーム(通信) 「落ち着け、リディ少尉!」
リディ 「……隊長おぉー!」
ノーム(通信) 「ぐ……ぁぁ……」
リディ 「ノーム隊長……」
「おのれぇ……! ……ぁっ!?」
「なんだ!?」
「はッ!? ガンダム……」

 ネェル・アーガマ ブリッジ
ミヒロ 「第1カタパルトに、ガンダムが!」
オットー 「何をやっている!? やめさせろ!」
ミヒロ 「ガンダム、パイロットは誰か!? 発進許可は出ていません! 戻ってください!」
ミネバ 「……!」
ダグザ 「……! 貴様っ」
アルベルト 「全員の要求をすり合わせたまでだ。ユニコーンの性能は折り紙つきだ。素人が乗ったとしても、我々が逃げる時間は稼いでくれる」
ダグザ 「『箱』をくれてやるようなものだ!」
アルベルト 「あれは鍵だ! 鍵が壊されれば『箱』は開かない。連邦の権益は守られる!」
ダグザ 「…………」
アルベルト 「彼は戦ってくれるよ……ユニコーンが破壊されるまで!」
「聞こえるかねバナージ君。初期設定のやり方はわかるな?」
ミネバ 「…………」
「バナージ……やめて……!」
 ユニコーン
アルベルト(通信) 「そのパイロットスーツには、耐G負荷を薬理的に軽減するシステムが内蔵されている。NT-D発動時にオートで作動するはずだ」
バナージ 「NT-D?」
アルベルト(通信) 「ユニコーンのリミッターが解除された状態のことだ。君は一度それを使いこなしている。大丈夫だ」
バナージ 「発進準備、完了!」
「……強制解除!」

 ユニコーン
《ユニコーン》
 VS
《シナンジュ》
バナージ 「……あッ」
「見つけた!」
「すごい……」
 アンジェロ専用ギラ・ズール
アンジェロ 「かすめただけで……!?」
「大佐!」
「撃ってしまった……大佐の戦場を……汚してしまった……」
「……私に撃たせたなァ!」

 ユニコーン/シナンジュ
《ギラ・ズール親衛隊機》
《ギラ・ズール アンジェロ専用機》
 VS
《ユニコーン》
フロンタル 「当たらなければどうということはない!」
バナージ 「うわあああぁぁぁ! あああぁぁぁ!!」
「……動いてくれるのか!?」
フロンタル 「むっ……Iフィールドか!?」
バナージ 「くっ……」
「やった……?」
「……はッ!」
「ぐぁ……! ぐッ……」
「オードリー……」
【《ユニコーン》 NT-D発動】
バナージ 「ぐうううぅぅぅッッ!!」
「見える……」
「これが……ガンダム……」
フロンタル(通信) 「ほう……」
バナージ 「っ!?」
フロンタル 「また敵となるか、ガンダム!」
バナージ 「退がれよ!」
 リゼルR008
バナージ(通信) 「退がってくれないと、オードリーが……!」
リディ 「……!」
 ユニコーン/リゼルR008
リディ(通信) 「挟み込む! 上昇しろ!」
《ユニコーンガンダム》
《リゼル R008》
 VS
《シナンジュ》
リディ 「……よせっ!」
リディ(通信) 「踏み込みすぎるな!」
「後ろだ!」
バナージ 「四枚羽根……!?」
「ぐッ……ぐふっ」
【《ユニコーンガンダム》 NT-D解除】
バナージ 「ごめん……オードリー……」
 クシャトリヤ
マリーダ 「あの子供がガンダムに……」
フロンタル(通信) 「感謝する。マリーダ・クルス中尉」
 リゼルR008/ネェル・アーガマ ブリッジ
リディ 「くッ!」
バナージ(通信) 「ごめん……オードリー……」
オットー 「…………」



 ネェル・アーガマ 捕虜収監室
ミネバ 「……!」
リディ 「…………」
ミネバ 「…………」
リディ 「子供のころ、テレビでザビ家の演説ってのを聞いたことがある」
「ジーク・ジオン、ジーク・ジオン……。気味の悪い光景だったよ。ギレン・ザビ……君の叔父さんに洗脳されて、何千人もの人間が一緒になって叫んでた。ネオ・ジオンでもやってるんだろ? ジーク・ジオンってさ。ここで言ってみろよ! ……言えよ! 君がジオンのお姫様なんだって、分からせてくれよ……。そうでないと……」
「ミネバ・ザビともあろう者が、なんだって一人で連邦の艦に潜り込んだのか……。その道のプロが聞き出してくれるだろう。でも、これだけは覚えておいてくれ。あいつは最後まで、君の名前を呼んでた。ミネバ・ザビじゃなくて、オードリーって名前を」
ミネバ 「…………」
「何もわかっていないのですね。あなたの言うその道のプロとは、誰のことです?」
リディ 「そりゃ、聴取官とか……」
ミネバ 「この件に司法が介入することはありません。私の所在についても公表は一切されないでしょう」
リディ 「え……」
ミネバ 「フル・フロンタルが、あくまで私をミネバ・ザビであると認めなかったのは、なぜだとお思い?」
リディ 「それは、こちらの……人質作戦に乗らないために……」
ミネバ 「考えればわかることです」
「この10年近く、私が捕まらずにいたわけ。ネオ・ジオンが再び地球圏に拠点を得て、軍備を整えられたわけ」
リディ 「出来レースだっていうのか……?」
ミネバ 「インダストリアル7での一件もすぐに報道されなくなる」
「家族や友人を失った人たちには許しがたいこと……。でも、スペースノイドはそうした理不尽に慣れている。その不満の受け皿、怒りの矛先として、連邦は私たちの存在を容認してきた。これまでは……」
リディ 「『ラプラスの箱』が、そのバランスを崩した……?」
ミネバ 「連邦には、ネオ・ジオンとの関係を清算しようとする動きがあるのかも知れない。だからこそ、ビスト財団は門外不出の『箱』に手をつけたのだと」
リディ 「難しいんだな……」
「おれは自分をパイロットだと規定してきた。モビルスーツを動かして、与えられた任務を確実にこなすのが仕事で、他のことは考える必要がない。たまに不正が起こっても、自分で自分を正す力が連邦政府にはあるって……。いや、嘘だな。見ないように、考えないようにしていたんだ。家にいる時からずっと。君はなぜ、ひとりで行動を起こしたんだ?」
ミネバ 「私にも、生まれついた"家"というものがあります」
「一年戦争の悪名を背負った家です」
リディ 「…………」
ミネバ 「私は、政治に無関係ではいられない。また同じ過ちが繰り返されようとしているなら、命に代えても止める義務と責任があります」
警衛隊員 「おいリディ。艦内が慌しい」
リディ 「補給部隊が着くんだろう。こっちに人は来ないよ」
警衛隊員 「カメラも止めてるんだからな……」
リディ 「わかってる」
「君はジオンの人間だ。裏で馴れ合っていたとしても、おれたちの敵だ。ノーム隊長たちの仇だ。それを許すことは、おれにはできない」
ミネバ 「わかります」
リディ 「……っ」
ミネバ 「リディ・マーセナスといいましたね」
リディ 「ああ」
ミネバ 「あなたの家というのは……」
リディ 「……別の場所で、会いたかったな」
 ネェル・アーガマ 通路
リディ 「おれに、できること……」



 パラオ内 フロンタルの執務室
バナージ 「……っ」
フロンタル 「旧公国軍、最後の砦……ア・バオア・クーにこんな部屋があったらしい。このパラオの総督は、旧ジオン公国の熱烈なシンパでね。人の好意は素直に受けなければならない。趣味に合わないことでもな。それも、指導者に求められる資質のひとつだと思っている」
「ご苦労だった、キャプテン。マリーダ中尉。あとはいい」
マリーダ 「大佐」
フロンタル 「わかっている」
「ミネバ様が敵艦に囚われているとは、予想外だった」
バナージ 「……!」
フロンタル 「政治的な手段も含めて、救出のチャンスはいくらでもある。こらえるんだ」
マリーダ 「はっ」
バナージ 「……シャア・アズナブル」
フロンタル 「どうした。座りたまえ」
バナージ 「…………」
フロンタル 「具合はどうかな?」
「あのガンダムから君を救出するのに、ずいぶん苦労したと聞いている」
バナージ 「あの……」
フロンタル 「うん?」
バナージ 「あなたは、あの赤いモビルスーツに乗っていた人ですか?」
アンジェロ 「……くッ」
フロンタル 「殺し合いをした相手と茶は飲めないか? バナージ・リンクス君」
バナージ 「…………」
フロンタル 「いい反応だ。だが向こう見ずでもある。パイロット気質だな」
バナージ 「……っ」
「失礼ですが……。その仮面は、傷か何かをお隠しになっているものなのでしょうか。もしそうでないのなら、顔を見せていただきたいのです」
アンジェロ 「貴ッ様ぁ!」
フロンタル 「いい、アンジェロ大尉。バナージ君は礼儀の話をしている」
バナージ 「…………」
「……ッ!」
フロンタル 「これはファッションのようなものでな。プロパガンダと言ってもいい。君のように素直に言ってくれる人がいないので、つい忘れてしまう。すまなかった」
「ミネバ様とのいきさつは聞いた。しかし、君がビスト財団からあのモビルスーツ……ユニコーンガンダムを託された経緯については、まだ不明瞭な点が多い。あれは本来、我々が受け取ることになっていた機体だ。カーディアス・ビストは、なぜ君を『ラプラスの箱』の担い手に選んだのか」
バナージ 「ここへ運ばれてくる間に、話したとおりです。それ以上のことは、自分も知りません」
フロンタル 「『箱』を隠し持つがゆえに、ビスト財団の栄華はあった。連邦政府との協定を破ってそれを差し出すからには、容易く変更できない計画があったはずだ。当初の予定が狂ったからといって、ゆきずりの相手に『箱』を託すとは信じがたい」
「たとえば君も、ビスト一族の関係者だった……とか」
バナージ 「答える義務、あるんでしょうか」
アンジェロ 「…………」
バナージ 「うッ!」
フロンタル 「やめろと言った、アンジェロ」
アンジェロ 「なめるなよ。小僧」
フロンタル 「答える義務は無い。だが我々は、『箱』の情報を欲している。ミネバ様のことがあるから、穏便な訊き方をしているのだということは憶えておいた方がいい」
バナージ 「そのミネバ……オードリーが言っていたんです!」
「いまのネオ・ジオンに『箱』を渡してはいけない。また大きな戦争が起きてしまうって」
フロンタル 「ほう」
バナージ 「おれたちのコロニーで……インダストリアル7で起こったことを思えば、誰だって同じ気持ちになります。彼女は、ジオンのお姫様なんでしょう!? そのオードリーが反対しているのに、どうしてあなたたちは……」
フロンタル 「では、君は信じているのか? 『ラプラスの箱』の存在を」
バナージ 「え……」
フロンタル 「誰も見たことがない、中身も定かではない『箱』なるものに、本当に連邦政府を覆すほどの力が秘められていると?」
バナージ 「それは……わかりません」
「でも、一瞬で世界のバランスを変えてしまう、知識や情報というものは確かにあるように思います」
フロンタル 「たとえば?」
バナージ 「ジオンが最初にやったコロニー落としとか、小惑星を落下させて地球を冷やすとか……。旧世紀の核爆弾も、ミノフスキー粒子やモビルスーツだってそうです」
「世界は安定しているように見えても、少しずつ変化しています。そういった力のある発明や実験なら、タイミング次第で……」
フロンタル 「正しいな」
「歴史をそのように理解できる君なら、宇宙移民が棄民政策であったこともわかっているな? サイドごとの自治は認められていても、首長の任命権限は中央政府に独占されている。その中央政府の選挙権も与えられないというのでは、スペースノイドは参政権を剥奪されたも同然だ。我々ネオ・ジオンは一枚岩ではない。だが共通しているのは、この歪んだ体制を変えたいという意志だ。連邦の鎖を断ち切り、スペースノイドの自治独立を実現するために、我々は――」
バナージ 「でも、テロはいけませんよ!」
「どんな理由があっても、一方的に人の命を奪うのはよくない! そんな権利は誰にもないんだ!」
アンジェロ 「では貴様はどうなのだ!」
バナージ 「ッ! うッ……ぐはッ……!」
アンジェロ 「武力のすべてが悪なら、ガンダムを使った貴様も同罪だ。貴様のせいで我々も貴重な兵を失った……」
バナージ 「おれの……せい……がはッ!」
アンジェロ 「たとえ流れ弾だろうが、貴様が撃ったことに変わりはない!」
フロンタル 「バナージ君にはまだそんな実感はない。無我夢中だったのだろうからな。セルジ少尉は不運だった」
バナージ 「おれが……人を殺した……?」
フロンタル 「ジンネマンを呼べ」
「君には、まだ学ぶべきことが沢山ある。我々のことを知ってほしい。その上で、よき協力者になってくれれば嬉しく思う」
バナージ 「……あなたは! あなたは、シャア・アズナブルなんですか!?」
マリーダ 「……!」
フロンタル 「いまの私は、自らを器と規定している」
「宇宙(そら)に棄てられた者たちの想い……ジオンの理想を継ぐ者の宿願を受け止める器だ。彼らがそう望むなら、私はシャア・アズナブルになる。このマスクはそのためのものだ」



 ネェル・アーガマ 士官室
アルベルト 「パラオ。サイド6に所属する、民間の資源衛星です」
「RX-0はここに運び込まれたというのが、情報局の出した結論です」
機関長 「ネェル・アーガマ1隻で、この要塞に攻め込めというのか! 不可能だ!」
アルベルト 「作戦を手動するのはエコーズです。そのための増援も到着してる。一騎当千のエコーズが、2隊合同でことに当たるなど前代未聞のこと!」
幹部クルー 「勝算はあるんですか? RX-0の奪還をするとなれば、局部の制圧作戦では済まない」
 ネェル・アーガマ MSデッキ
タクヤ 「百式だー! すげー!」
 ネェル・アーガマ 士官室
幹部クルー 「敵の増援を絶つためにも、広範囲にわたる破壊工作が不可欠だ」
航海長 「艦長は承服しているのですか?」
その他幹部 「拠点攻撃を行うなら、ロンド・ベル全隊に招集がかかって然るべきではありませんか」
その他幹部 「参謀本部は我々に、討ち死にを要求しているとしか思えない!」
アルベルト 「そのために、金のかかる特殊部隊を2隊も投入しているのです。隠密作戦としてはこれが手一杯ですよ!」
機関長 「あんたには聞いてない!」
その他幹部 「RX-0が奪われた原因は、あんたが作ったんだろうが!」
一同 「そうだ! そうだ!」
アルベルト 「よ、予想外の展開でしたが……そのお陰で艦は沈まずに――」
オットー 「……すぐに戻る」
 ネェル・アーガマ 艦内エレベーター
オットー 「くそったれぇ!」
「何が増援だ! 何が隠密作戦だ! 失敗の! 言い訳作りに! 必死になりやがって!!」
「ふざけるなああぁぁ……ぁ、お、おゎ……!?」
レイアム 「…………」
オットー 「……コホンっ」
レイアム 「参謀本部の命令は聞きました。どうなさるおつもりですか?」
オットー 「やるしかあるまい。世界の命運を決する『箱』とやらが関わっているのだからな」
ダグザ 「私も、命令に異論はありません」
オットー 「ん?」
ダグザ 「ですが、我々はこれを人質救出作戦と捉えています」
「我々は彼に借りがある。やりようはあります。……この艦には、ハイパー・メガ粒子砲が搭載されていましたね?」

 パラオ内 フロンタルの執務室
フロンタル 「連邦の動きが気になる」
「場合によっては、ここを放棄せねばならなくなるかも知れん」
アンジェロ 「連邦が仕掛けてくると?」
フロンタル 「ユニコーンガンダムの調査はどうなっている?」



 パラオ内ダウンタウン側居住区 ギルボアの家
ティクバ 「兄ちゃん、連邦の人なのか?」
ギルボア 「ティクバ。黙って食え」
バナージ 「この人たちに無理やり連れてこられたんだ」
ギルボア夫人 「ちゃんと座って食べなさい」
ティクバ 「ホリョか?」
バナージ 「そうかもね」
ティクバ 「ならオレたちのホリョになってよかったなぁ! 連邦軍のホリョになったら、飯もちゃんと食わせてもらえないんだぞ。ゴーモンされるんだぞ!」
ギルボア夫人 「ティクバ、食べながら話さない!」
バナージ 「連邦はそんなことしないよ」
ティクバ 「する! 父ちゃん言ってたもん。地球でホリョになって、収容所でキャプテンに助けてもらったんだって」
バナージ 「ジオンに家族や友達を殺された人だって、大勢いたんだよ」
ティクバ 「……そんなのお互い様だろ! 戦争なんだもん! ジオンはスペースノイドのために戦ったんだ。兄ちゃんだってスペースノイドだろ? なんで連邦の味方をするんだよ!」
ギルボア 「いい加減にしろ。父ちゃん怒るぞ」
バナージ 「正しい戦争なんて、あるもんか」
ギルボア 「……ん」
バナージ 「言ってることは正しくても、ジオンがコロニー落としでたくさんの人を殺した事実は変わらないんだ。殺された人たちには、正しいかどうかなんて考える隙もなかった。なんにも知らずにある日いきなり……まともじゃないよ、そんなの。そうだよ、まともじゃない……。仕方ないじゃないか、殺されるところだったんだ。殺そうと思ったわけじゃない……! おれは……人殺しなんかじゃない!」
ギルボア 「……!」
マリーダ 「一緒に来い」

 廃貯石場 洞窟内の礼拝堂
マリーダ 「お前の言うことは間違っていない」
「正しい戦争なんてない。でも、正しさが人を救うとは限らない」
「……このパラオが、まだアステロイド・ベルトにあった頃に造られたものだ。初期の宇宙開拓者といえば、地球で食い詰めた者や政治犯……ほかに生きていく術を持たなかった者たちばかりだ。宇宙世紀が始まったとき、時の首相は"神の世紀との訣別"と言ったそうだが……太陽も星のひとつに紛れてしまいそうなアステロイド・ベルトに住む彼らには、すがるべき光が必要だったんだろう」
バナージ 「光……」
マリーダ 「光がなければ人は生きていけない」
「でも……宇宙に棄てられた人々はやがて神に代わる光を見出した。ジオンという名の、新しい光を。彼らには、それが必要だった」
「絶望に抗い、残酷で不自由な世界で生き続けるために……。この世界には改善の余地がある、と思わせてくれる何かが。そんなものがなくても生きていける……実体の無いものにすがるなんて馬鹿らしい、そう言い切れる奴がいるとしたら……そいつは余程の幸せ者か、世間に関わってないかのどちらかだろうな」
バナージ 「人間だけが神を持つ……」
「そう言っていた人がいるんです。今を超える力……可能性という名の内なる神を……って」
マリーダ 「ロマンチストだな。人や世界を信じていなければ、そんな言葉は出てこない。きっと優しい人だったんだろう」
バナージ 「…………」
マリーダ 「セルジ少尉……、お前が墜とした奴のことは気にするな。モビルスーツに乗って戦場にいれば、それはパイロットという戦闘単位だ。気に病む必要はない。ただ……自分が既に状況の一部になっている、ということだけは覚えておけ」
「ミネバ様のために行動を起こしてくれたこと……礼を言う」
バナージ 「え?」
「あなたも……あ、えっと……」
マリーダ 「マリーダ」
バナージ 「マリーダさんも、モビルスーツに乗ったりするんですか?」
マリーダ 「……人手が足らない時にな」

 ネェル・アーガマ 捕虜収監室
警衛隊員 「食事だ」
「艦が作戦行動に入る前に……うッ!?」
ミネバ 「……!」
「あなた……」
リディ 「おれと来てくれ」
ミネバ 「……っ」
リディ 「地球に降りる」
ミネバ 「……!」

 パラオ内ダウンタウン 元歓楽街
謎の男 「ぅ……っ……おっ! とぉ、ごめんよぅ……」
バナージ 「……!? あの……!」
「……?」
マリーダ 「どうした?」
バナージ 「あ、いえ……」

 ギルボアの家 一室
バナージ 「……はっ」
「14スペースゲートの、3番ポート……午前零時……。時刻厳守のこと、生命に関わる!」
「命に……!」
「今度は……ここが戦場になるのか……?」


 エンドロール 主題歌:Everlatsting


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